拗ねちゃった子虎
 


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サクラといえば…に付きものなのが 学校の入学式ではなかろうか。
人生のうちで最も早くやって来る新しい門出とあって、
新品のランドセル背負ったいたいけない子らが、
よそゆきのスーツ着たお母さんと並んで、校門に立てられた看板前で写真を取る図というのが
ドラマやCMなどでテンプレのように取り上げられている。
そこに付きものなのが満開の桜だが、
近年はどこも早咲きで、葉桜だったがっかりなんてことも往々。
そんな桜花だが、流行り歌なぞ聞くと卒業式にも付きものという印象も強い。
お別れですね、花影で涙そっとぬぐいますなんて格好で。
進学や就職で新天地へ旅立つ人へのはなむけ、
その背景には満開のさくら…というイメージなのが
勝手に“卒業式”へも付きものとなっているのかなぁ?
というのが、最近の卒業式って結構前倒しで、
大学はそうでもないけれど、
高校や中学は年々早まっているそうで。
何となれば進学先の学校の合格発表前というところもざら。
三月の頭とか お彼岸前とか、それではさすがに桜は咲いてない。
高校生だと、就職とか県外の大学への色んな準備に忙しいだろうから…ということなのかな。
卒業旅行にもっとたっぷり日数が欲しいから…ってことはないよね、さすがに。
中学の卒業式も近年はずんと早いそうで、
公立入試の合格発表前だったりした日にゃあ、
すべった子へのケアはどうなるのかなんて書き込みをどっかで読んだなぁ…。



ちょっとぼんやりさんだというか、気づきが遅いという自覚はある。
鈍感でないといられなかった過酷な環境下にいたからかも。
周囲の大人へのご機嫌伺いなんて無駄なほど、容赦なく折檻されていた地獄だったから、
それこそ そんなことからの逃避思考に走るのが精いっぱい。
自分可哀想とこぼす相手もいないのだし感覚が鈍かったのも致し方ない。
ただ気が回らないというのでもなくて、辛そうだなということへは敏感で、
困っている人を放っておけず、
何もあなたが負わなくてもというよなことへ手を出してしまうこともたびたび。
そこも自己評価の低さからだろうが、“自身へ”の気づきが遅いので、
知らないうちに思わぬ人から好かれていたとか、
いつも突っ慳貪な人から実は 以下同文というケースも多々あった。
こたびの煩悶はそこまでの浮いた話じゃあないのではあるが、
気づいたものの どうしようもないことだったため、
その点で “はぁあ”とついつい溜息がこぼれてやまぬ。

 「…失敬な奴だな。」

いいお日和の平日の昼間っから、青年だか少年だか微妙な若いのが二人、
街角のカフェテラスで同席している図は、
春休みという時期なのでそうそう奇異な構図ではないはずだが。
双方ともにそれなりの高偏差値に値しよう
瑞々しいまでのキュート&端正な顔ぶれだったため、
傍らの街路をゆく目ざとい女性陣からの秋波ががんがんと届く。
片や武装探偵社の活劇担当調査員であり、片やは泣く子も黙るマフィアの指名手配犯。
どっちもあんまり顔を売ってはいかんはずだが、
堂々としておれば そこまでの訳ありな存在だと気がつく一般人はいないらしいのを、
これまでのあれこれから知っている。
また、一般人ではないクチからはからで、
片やだけを知る立場であったとして
ああ、あの人の知り合いなら問題ないかという微妙な納得をされるらしく。
漆黒の貴公子はともかく、それでいいのか探偵社員。(笑)
その貴公子さんから 溜息三昧とは共に居るこちらに不敬ではないかと詰られた少年、
溜息と共に覇気も吐き出したらしく、
薄いジャケットの襟に頬を付けるよにして項垂れたまま、
やたらぐたりと油断しまくりの態で脱力しており、

 「ん〜、だってさぁ。」

ちょいとこちらの頭頂部へ目をやった芥川だったので、
太宰から何かしら訊いていて
何でまた鬱陶しい溜息の多い弟分なのかも察しているのだろう…と
敦の方でも勝手ながら慮していての、つまりは大きに甘えてのグデりようならしく。
ふんと小さく息をついた兄人、その答え合わせであるかのように、

「育ちざかりなうちに体質改善されてよかったではないか。」

ティーカップを品のある所作にて持ち上げつつ、そんな一言を放ってくる。
敦がそれは過酷な子供時代を送っていたこと、
此処までの付き合いの中で彼も重々知っており。
身体の基礎を築く“成長期”に間に合ったらしいからこその重畳な成果だろうと
何を案じることがあるという方向で窘めてくれるのへ、

「そうは言うけど。」

弟君としては、これもまた甘え半分にぶうたれ続ける。

 「良かれと言うなら、じゃあ何で機嫌悪いんだよ、お前まで。」
 「文字通りこっちを見下ろす格好で
  ますますと増長するのかと思うとむかっ腹も立つわ。」

ますますとと言われたのが心外だったか、

「そんなことにはならないよぉ。」
「どうだかな。」

そんな不遜はしないと言いつつも、やはりやはりむすぅと膨れるところが幼くて。
それでのこと、それ以上はムキにならずに芥川もくつくつ笑う。
任務でかち合うと容赦なく全力で噛みつき合うくせして、
平生はこうまで言葉要らずな把握をし合っての兄弟関係にあるところこそ、
周囲から不思議だと扱われている白黒の少年二人だが、
彼らからすりゃあ、そういう切り替えが曖昧微妙な先達の方がおかしいと常々。

 『任務かかわりでない場合ほど 陰惨な口げんかしてしまうのってなんでだろ。』
 『然り。もしかしてあれがお二人の親しみ方なのやもしれぬ。』

勿論のこと、どんな恐ろしい目に遭うことかも判っているので、
そんな感慨なぞ絶対本人たちには言わない、当然。

  ……話が逸れたが。

太宰の観察によればここ数日ほど、
虎の少年が微妙ながらも気に病んでいるのが、
自身の成長に関することならしく。

 『人聞きの悪いとまで言うんだよ、おかしいったら。』

もうすでに中也より大きいのに何を今更だよねぇなんて、
敦の慌てようを可愛いなぁなんて捉えていた太宰だったが、
本人にはそんな幼いレベルの煩悶ではないようで。

 『あれでしょうか。
  小さかったので可愛いと飼い始めたカイマンワニが、
  実は1m越えまで育つと知って狼狽えているとか。』

虎だけにと、そんなややこしい例えを思いついてしまった芥川だったのへは、
もっと吹き出してくださった師が、
そのまま “君の方がもっと可愛いとはねぇ”などと
理解不能なお言いようをしてから………

 「…。///////////」
 「芥川?」

急に黙り込んだまま赤くなった彼だったのを、
どうしたの?と他意なく慮した敦少年には罪はないから。

 「…っa.gif
 「わあ、なになにっ。」

羅生門をこんな開けたところで発動させるのは辞めなさいね。(笑)





to be continued.(19.03.26.〜)


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 *相変わらず微妙なネタです。
  微妙なお年頃、しかもヘタレな敦くん、
  またまたしょうもないことで煩悶中らしいです。
  それへ付き合ってる兄人さんまで、
  微妙な思い出しをしてこんがらがったところでタイムアウトです。
  繊細なお話は噛み砕くのに時間がかかるおばさんです、すいません。